設立総会の概要

庄井 良信(北海道教育大学)

1.報告と基調講演

 2011年1月29日(土)、札幌サンプラザ金枝の間で、北海道臨床教育学会の設立総会が開催された。
 総会に先立ち、第一部では「北海道の臨床教育学―その到達点と学会の役割」について考えあった。設立準備会委員を代表して北海道教育大学の庄井良信が「北海道における臨床教育学の歩みと未来展望」というテーマで報告と基調講演を行なった。
 基調報告で庄井は、次のように語った。
 いま様々な困難を抱えた子ども・若者と、その援助者たちが、深い不安や葛藤を胸に、懸命に生きている。後ずさりしつつ未来へ歩む(Paul Valery)日々の中で、人間発達援助の「知」が刻々に創造されている。それは明示化されることを待っている前・概念的な知(体験に埋め込まれた暗黙知)である。
 臨床教育学は、人間発達援助の最前線(創造現場)で生まれる臨床的な知の枠組みを、当事者の人生に寄り添い、当事者の声を聴き、当事者と共に、多くの人々が共有できる理論・概念として再構築していく学問である。
 この学会の設立で、心から応援したい人、共に学びあいたい人は、不安、寂しさ、悔しさ、虚しさをひとりで抱え込まざるを得なかった子ども・若者と、その援助者たちである。いま、援助者たちの孤立も深刻である。困難を抱えた人々の「無縁社会で、もっとも懸念されることは、援助者どうしが「無援社会」の荒波にさらされることである。


2.学会設立の経緯

続いて、庄井は、北海道臨床教育学会設立までの歩みを次のように整理した。

1990年代:「臨床教育学」の胎動
1998年:日本教育学会課題研究委員会として「臨床教育学の今日的課題」が発足
2002年:『臨床教育学序説』(柏書房)
2003年〜2007年:日本学術振興会・科学研究費補助金による全国規模の共同研究
2008年:『創造現場の臨床教育学』(明石書店)
2009年:日本臨床教育学会設立準備会発足
2010年:北海道臨床教育学設立準備会発足

 北海道の臨床教育学会が発足する背景には、地域社会のなかで、さまざまな困難を抱えた子どもや保護者を、日常的に理解・支援しようと苦悩しつつ奮闘する学校の教師や、地域の発達援助専門職の人々がいた。
 教師たちの自主的な研究サークルの経験が蓄積され、大学・大学院における現職教員・発達援助者たちの継続的な学び合い(カンファレンス)があった。その広がりは、保育者・療育者・特別支援教育実践者・養護教諭・学童保育指導員・心理カウンセラー・学校ソーシャルワーカー・矯正教育専門職・不登校を考える親の会などとも繋がり始めていた。


3.研究課題の提起

 その上で、庄井は、北海道における臨床教育学の研究課題を次のように提起した。
 一つは、さまざまな困難を抱えて生きる人びとの「声」を聴き、その人生・生活(Life)に深く寄り添い、語り合い、学び合いながら、領域横断的かつ総合的な人間発達援助の知を探求・創造することである。
 二つ目は、さまざまな悩みや困難を抱えた人びとの一回性の出来事(体験)に立ち止まり、「問い」をつむぎ合い、「思索」を深め合い、そこから普遍的な人間発達援助の臨床知を創造し合うことである。
 三つ目は、実践から理論へ、理論から実践へという豊かな往還を重視し、具体的な実践から「問い」を立ち上げ、理論・概念構築へと架橋することを重視することである。そのためには、 「実践者」と「研究者」が、対等な立場で学び合うことが必要である。
四つ目は、学校の教師(教職員)と、心理、福祉、医療、ケア、保育、療育、特別支援教育、矯正教育など、様々な臨床の創造現場で活躍する発達援助専門職の人びとが、互いの専門性を尊重しつつ学び合い、人間発達援助に関する新たな知の創造をめざすことである。


4.臨床教育学の<果実>を求めて

 そのためには、@学校の教師(教職員)と地域の発達援助者とが互恵的に支援しあう「子ども理解のカンファレンス」を展開すること、Aいじめ・不登校・虐待・特別なニーズを持つ子どもたちと、その家族・援助者への支援やコミュニティ支援を考えること、B学びに不安を抱える子どものエンパワーメント(自己物語の恢復)を支援する理論を構築すること(授業・カリキュラム開発も含む)が必要である。
これらのことを通して、願っていることは、@子どもや援助者への理解と支援の枠組みが、広がり、深まり、その結果、指導や支援の構想力が磨かれること、A地域に領域横断型の子ども支援・家族支援・援助者支援のネットワークが生まれ、無縁社会=無援社会を脱皮する社会を構築しあうこと、B教師を含む発達援助者の相互支援にもとづく学びのサポートを実現し、未来の教師教育・発達援助者教育の新しい可能性を探ること。


5.船出を祝いつつ航路をひらく

 その後、「それぞれの立場から臨床教育学への希望を語る」というテーマで、以下の人々(パネリスト8名、敬称略)の発題を受けてトーク&セッションが行なわれた。(詳細は、別記総会報告を参照されたい)。

渡部英昭(北海道教育大学評議員・教職大学院教授)
小野富士子(滝川市・小学校教師・地域の特別支援教育コーディネーター)
藤澤淳(利尻町・小学校教師・子ども理解にもとづく授業研究、生活指導)
内島 貞雄(北海道教育大学旭川校・発達教育学・不登校親の会支援)
柴田久美子(北海道特別支援学校寄宿舎指導員・寄宿舎教育)
谷光(北海道子どもセンター・生活指導と教育相談)
間宮正幸(北海道大学・臨床心理学)
川原茂雄(高等学校教師・教師アイデンティティ論・教師教育論)

 領域横断的な人間発達援助理論の構築への期待が、それぞれのパネラーの生きた言葉で語られた。自分の人生を自分の言葉で語り合い、そこから切実な問いを紡ぎ合うトーク&セッションそのものが、臨床教育学の共同研究イメージにつながるものだった。
 その後、第二部の北海道臨床教育学会設立総会では、第1号議案:設立の趣意について、第2号議案:会則、第3号議案:役員の選出、第4号議案:活動方針と予算が提案され、承認された。
 17:00から同施設の「すずらん」の間で開催された記念レセプションには、50名近い参加者があり、ここでも自分の言葉で語り合う人々の姿があった。北海道の臨床教育学の研究と実践が、ここから始まるという機運がしみじみと感じられる祝賀の集いとなった。福井会長、富田副会長はもとより、設立準備に献身的にご尽力いただいた宮原順寛さん、内田雅志さん、畠山貴代志さん、正武家重治さん、中根照子さん、池田考司さん、川俣智路さんをはじめ、多くの人びとに支えられて北海道臨床教育学会は船出した。関係者に心から感謝したい。


活動紹介

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